緊迫したこの状況で、白スーツの男は怪しい笑みを浮かべたままだ。こちらの気に障ることを知っていてわざとやっているのだろうか。

 喧嘩っぱやいソニアが向かって行こうとしたのを、グレイが『ソニア、待て』となだめる。そう言う彼も、腰元のケースに常備している拳銃にしっかり手をかけていたのだけど。

 アタシ達の目の前にたった一人で現れた、謎の男。それまで流暢な日本語を話していたソイツは、母国語だと思われるスペイン語で喋り出した。



『“ソルファミリー”という名前を知っているだろう?クロノス。お前は確か、当時8歳だったからな。』

『十年前に消えた、あの?アンタもしかして……』

『あぁ、末裔だよ。僕はフリアン・ベラノの息子、フランシスコだ。当時14歳だった僕は、あの恐ろしい“血の海”から生き残ったのさ。家族も部下達も全員死に、僕は絶望していた。
だがな、僕以外にもう一人、生き残っていたんだよ。父上が最も信頼していた部下が……』



 奴は憎しみに染まった目で話した。父の仇討ちをすることだけを胸に生きてきたこと。やっとファミリーを立ち上げた時のうち震えるような喜び。薄ら笑いが、奴を不気味に演出していた。