悟さんのユニークな発想には目を見張るものがある。父に連れられて初めてこの店を訪れた時、彼はこう言っていた。“料理は芸術の一種”だ、と。

 彼のアーティスティックな料理は確かに“作品”だ。日本の魚のたたきをスペイン産のワインをベースにしたタレで味付けしたり、ピオノノというスポンジ菓子を、クリーム・小豆・抹茶アイスを使って大胆に和風に変えたり。常識を覆すのが、彼は好きなのかもしれない。



『マスターの料理はどれも絶品ねぇ。今日もチップ弾まなきゃ!』



 アルボンディガスというミートボールを頬張りながらソニアが言えば、みんな無言で同意を示す。勿論アタシも、首を縦に振った。

 エリオさんはガスパーチョを優雅に口に運びながら、アタシと群に話しかけてくる。その目は水と戯れる子供のように嬉々としていた。



『お二人の出会いをお聞きしてよろしいですかな?』

『出会いも何も……あるパーティーでちょっと話をしたら、勝手に縁談が進んでいたのよ。』

『迷惑そうに言うなよ未来。照れ隠しか?』



 照れ隠しではない。勝手に事が進んでいたのは本当に迷惑だったのだ。彼の心に、そう訴えてみる。