そっと握り締めた手が、徐々に冷たくなっていく。あのぬくもりに、もっと側に居て欲しかったのに。この願いはもう、叶うことはない。誰かの『クソッ!』という悪態とすすり泣く声が耳に入ったけど、そちらを向く気にもなれなかった。

 唇を噛み締めながら、小さなその手をゆっくりと放す。イリスを離れてマフィアのボスに戻ったその瞬間から、抑えようのない感情が胸の中で沸々とし始めた。

 目の前に居るあの白スーツが憎らしくて仕方ない。殺意に比例して眼力が強まるのが、自分でも分かる。



『おおっと、冷静沈着な“クロノス”が感情を顔に表すとはな。世界史に残る出来事じゃないか!歴史的瞬間に立ち会えるなんて、僕はラッキーだ。』



 何がおかしいのか、そう言ったフランシスコの漆黒の瞳と赤い唇は愉しげに歪んでいる。その様がアタシを更に煽る。

 アンタに何が分かるのよ。どうしてイリスが死ななきゃいけないの。感情のるつぼが飽和状態になり、アタシは遂に中身をぶちまけた。



『煩い!!アンタなんか殺してやる!!』