でも結局、木崎君はその話を受けた。
不正調査のためには情報を共有する人間を増やしたくないという上層部の思惑もあったのだろう。
でも木崎君の優しさが自分が苦しいのを避けるために、誰かにその苦しさを押し付ける事が出来なかったのだ。


「もうさ、自分でも馬鹿だとは思ったけど。気付いちゃったのは自分だし、しょうがないやって。
それに誰かを処分しなきゃいけなくなった時に、自分でやったら、誰かの所為にしなくていいだろ?」


そう言って私を見上げた木崎君の目は弱々しくて、胸がツキンと痛んだ。


木崎君は誰も知らないところで、こんなに戦ってたんだ。


「江藤が泣くことじゃらないだろ。やっと泣き止んだのに。
そんな泣いてばっかりいると干からびるぞ。」

言われて初めて、また泣いてしまっているのに気付いた。

木崎君は微笑んでゆっくりと私の頬に触れて、涙を拭ってくれた。