「あ……、ハンドクリーム塗ってないからカサカサだから。」

あわてて引っ込めようとするが、それを許さなかった。

「カサカサなんかじゃない。」

俺の手の方が、マメだらけで節くれだっていて、ゴツゴツしている。

彼女の指にそっと唇を寄せると、彼女が緊張するのが感じられた。

「あーっと、お邪魔かしら?」

手首を捻挫している澤口さんが声をかけてくる。

「いや、どうぞ。」

川野は真っ赤になりながら、あわてて両手を隠した。

「本当、仲が良いのね。
羨ましい位。
あの村上君がデレてるなんて、この目で見なければ信じられないわ。

一度通しで聞かせてもらおうと思ってきたんだけど、良いかな?」

「う、うん、分かった。」

あわてて川野がピアノに向かう。

数回深呼吸をして、ピアノの音が流れ出した。

「うん、まあまあね。
強弱に気を付けて、音も途切れないように気を付けて、もう一度やってみて。」

こんな注文の声を交えながら、澤口さんの指導が続く。


俺はただ黙って、二人を見守っていた。