「うるさくてごめん。」

「楽しいお母さんね。」

彼女は嬉しそうだった。
恐いタイプの母親ではない。
娘がいないので、はしゃいでしまったのだろう。

しかも、長男が初めて連れてきた女の子だった。

「良かったらケーキ食べて。」

「あ、いただきます。
美味しい。
私、ケーキとか甘いもの大好きなの。
嬉しい。」

「これ、買ってきたのだよ。
数年前までは作ってたんだけど、男には食べさせ甲斐がないって、作らなくなった。」

「へえ?作ってたんだ、すごいね。
私もたまにお菓子作るんだけど、結構大変なのよね。

ケーキは特に、膨らまなかったり、パサパサだったりして。
でも、失敗作も全部食べちゃうんだけど。」

女の子らしいな、と感心していると彼女が思い出したかのように、鞄からなにかを取り出した。

「あの、これ、誕生日のプレゼント。
何が良いかわからなかったから、スポーツタオルなんだけど。
何枚あっても良いかなと思って……。」

一生懸命に考えて選んでくれたのかと思うと、感激した。

プレゼントを受け取ろうと思い手をのばしたが、つい、彼女の手を握ってしまう。

「ありがとう。」

我慢できなくて、彼女の手の甲に唇を寄せる。

ビクッと手を引こうとするのを許さず、そのまま数秒間口付けていた。

彼女の香りに酔ってしまいそうだった。



「お取り込み中、悪いけど冷蔵庫まで通らせてもらうからね。」

声がした。

そうだった、こいつが帰ってくるんだった。

「どうぞ。」

顔を上げると、真っ赤な顔をした彼女が口をパクパクさせていた。

誰、と聞きたいのだろう。

「弟。」

「弟の幸次郎で~す。
こんにちは、ミツコ先輩。

俺、一級下の後輩だから。
ヨロシク。

あ、俺、すぐ二階に行くので、ごゆっくり続きをどうぞ。」

ペットボトル片手ににこやかに話す幸次郎が邪魔だった。

早く行け、と、つい目配せをしてしまう。

「弟クン、いたんだ……。」

奴の消えたドアを見つめて、彼女がつぶやいた。