「村上、おつかれ。宏美にメールしたら、一緒に帰ろうってさ。」

「ああ、今行く。」

試合を終え、各自帰る所だった。
川野たちの姿が見えなくなっていたので、もう帰ったのかと思ってたら、どうやら待っていてくれたらしい。

俺も川野も携帯電話は持ってないが、松木と篠田が持っているので、こういう時は連絡しあえて便利だ。



テニスコートを出てまもなく、川野たちがいるのが見えた。

「優勝、おめでとう。カッコ良かったよ、二人とも。」

篠田が言う。

「おめでとう。」

川野も、恥ずかしそうに小声で言っている。

「応援来てくれて、サンキュー。」

松木がそう言ってたが、俺は川野の手をつかんで二人で歩き出していた。

今は、二人きりになりたい気分だったのだ。

「あ……と、じゃ、またね。」

彼女がそう言いながら付いてくる。



少し行ってから川の近くの土手の方に行き、ジャージーの上着を俺の隣に敷いて座った。

彼女を見やると、とまどいながらそっと
腰をおした。
「見に来てくれて、嬉しかった。」

とりあえず、今の気持ちを口にしてみる。

「うん。」
そう言って、恥ずかしそうにうつむく彼女がいた。


肩が触れるか触れないかの距離だ。
肩を抱き寄せてしまおうか、キスしたら怒るだろうか。

こんな事を考えていると知ったら、怖がるだろうか。
それとも、あきれるだろうか。

何も会話が弾まないままだったが、苦痛ではなかった。

だが、彼女はどうだろうか。
そっと様子をうかがおうと見やると、目が合った。



数秒間、見つめ合う。




俺は、さっさと逃げ出す事にした。

仰向けに寝転んだのだ。

「あー、疲れた。
眠て~。」

そう言って、空を見つめる。

「おつかれ様。
今日は早く帰って、ゆっくりした方が良いよね。
帰ろう?」

「ああ。そうするか。」

彼女は立ち上がって、敷いてたジャージーの、草を払ってからお礼を言って返してきた。
もうすぐ、暗くなる。

「送っていくよ。」

「でも、疲れているだろうし。」

「大丈夫、送りたいんだ。」

今日優勝したので、まだもう少し練習漬けの日々が続きそうだった。
中々ゆっくり会えないだろう。

手を繋いで歩き出す。
これでもう少しの間、一緒にいられる。