「ただいま」

小さな声でいったつもりなんだけど。誰もいないこの家には十分だったようだ。私の声はこだまして薄れてゆく。
靴を脱ぐと、畳の敷かれた部屋に向かう。そこには――

「お父さん、ただいま」

仏壇の上に置かれた、お父さんの写真。柔らかな笑みを浮かべて、こちらを向いている。少し茶色の混じった、ふわふわした髪の毛。自分のお父さんながら、かなりのイケメンだと思う。

“お父さん”って、本人に向かって言ったことはないけれど。

私のお父さんは、私が生まれる2週間ほど前になくなったそうだ。気づいた頃には、手をつけることは不可能だったらしい。