「うー……、さみぃ」

外に出た途端、顔にあたる冷たい風。体全体を冷やしていく。分厚いジャンパーを着たというのに、まだ寒いのかよ……。11月下旬にしては寒い日だって言ってたっけ……。
まぁ、いい。自転車に乗らねぇと……。
去年、一目惚れして買ってもらった自転車に跨る。
ゆっくりゆっくり漕ぐ。なるべく風が当たらないように……。
住宅街を抜け、あまり行かない道を通る。朝だということにも関わらず、たくさんのが人が、歩いたり、走ったり、俺と同じように自転車を漕いでいる人がいる。
笑っている人もいれば、無表情の人もいる。寒さに凍えながら、白い息を吐く人もいる。
皆、今どんな思いで過ごしているのか様々で。何億通りの思いと行動があって。
そんな世の中に生まれたことを、俺は誇りに思う。こんな何億という人がいる中で、ゆずきに出会えたことを奇跡と名付ける。母さんと父さんの子に生まれて良かった。ゆずきに出会えて良かった。

もし、生まれ変われるのだとしたら、俺は迷わず、もう1度今の人生を歩みたいと思うよ。優しさと幸福に満ち溢れた人生を。