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「おぉう!なんだこれは!?」



目を輝かせながら、叫んだ蓮華を周囲の人々は不思議そうに見つめた。


蓮華が、指さすのは祭りの定番とも言っていい、焼きそばだ。


指先が示す方向をたどった涼香は、ため息をついた。



「何って…焼きそば」


「ヤキソバ?なんだそれ、蕎麦なのか?ヒモを焼いた珍しい物品だと思ったのだが……」



首を傾げる蓮華に、涼香は(このクソお坊ちゃんめ)と中指を立てようとする。


が、真面目にお坊ちゃんと言えば、世間知らずなのだろうとなんとか自分を落ち着かせる。



「ヤキソバか……ほう……」


「何?食べたいの?」


「っ!?べ、別に食べたいとは言ってな……///」



顔を赤らめ、ぷい、とそっぽを向かれた。


(素直じゃないわね)と、呆れるも先程買ったばかりのそれを蓮華に押し付ける。


蓮華は、一瞬ポリ袋に包まれるものに小首を傾げる。


だが、すぐ中身を知り、涼香に差し出す。



「っ、いらないと言っ……「別に」


「たまたま、余ってただけなので」



語尾を強くし、蓮華と同じ様にぷい、とそっぽを向く。


そんな彼女を見つめた蓮華は、ふ、と柔らかく笑った。


(……勝てないな)


そう心に呟き、蓮華は涼香から受け取ったまだ暖かい焼きそばを口に入れる。



「っ!?」


「何、美味しくないの?」



心配そうに、蓮華の顔をのぞき込む涼香。


蓮華は、首を横に振り、そして涼香をまっすぐ見つめた。



「おいひい!////」



よほど美味しかったのか頬にたくさん詰まったまま喋る蓮華。


その様子に、涼香は声を上げて笑った。



「ぷっ、はははっ」


「?」


「なんだ、そーゆーところは素直なのね」



笑いすぎて出た涙を拭いながら、涼香は蓮華の方を向き直した。


蓮華は、「う、うるさいっ」と言うも相も変わらず耳は赤かった。


そんな蓮華達とは打って変わり、零涙は楽しそうにはしゃいでいた。


祭りに興味は無かったはずだが、珍しい物品が並ぶ未知の世界に零涙は目を輝かせる。


「ねえねえ、あれ何?」と、聞きながらはしゃぐ彼の姿に皆は癒されつつもある。


誠名は、(はしゃぐ×零涙最高!!)と鼻血寸前だ。


誠名がこれならば、周囲の人々(特にお姉様方)は、吐血寸前である。



「ねえ、あの剥製みたいなものは何?」



首を傾げ、零涙は質問を投げる。


その質問に、姫は零涙の視線をたどればそこには、赤いりんご飴。


透明でもなく、赤く染まったりんご飴に零涙は不思議そうにじっと見つめていた。


その様子が、あまりにも可愛らしくて姫はクスッと笑う。



「それはね、りんご飴って言って、とっても甘いの」


「りんご飴……?キャンディ?……甘いの?」



クエスチョンマークを浮かべながら、零涙は尚も真剣そうに見つめるので。


姫は、フルーツ飴の屋台の店主に声をかけた。



「すみません、りんご飴一つ」


「はいよ」



人当たりの良さそうな顔で笑った店主からりんご飴を受け取ると、零涙に差し出す。


零涙は、蓮華のように躊躇する間もなく受け取った。



「ありがとう」


「……」



素直に、礼を言う零涙に姫は目を見開く。


零涙は、「どうしたの?」と姫を見つめた。



「ありがとうなんて、言うんだね……」



そう呟けば、不機嫌そうに眉間にシワがよる。



「当たり前でしょ、僕をなんだと思ってんの」



頬を膨らまし、りんご飴の包み紙を開ける零涙。


やっぱり、可愛いなあ……


と、姫は本人に悟らせないように小さく呟いた。


一方その隣では、何故か数人の女子(決して知り合いでない)に囲まれる誠名の姿。


その顔は、とても楽しそうだ。



「いやー、皆浴衣可愛いねえ〜」



誠名はそう言うと、女子達に優しく笑む。


周りの女子達からの黄色い声に、恋愛は忌まわしげにその様子を見つめた。



「ま、俺が一番可愛いと思うのは……」



誠名は、ゆっくりと歩みを進めた。



「恋愛チャン、かな?」



恋愛の髪を人房とり、妖艶に、微笑む誠名。


普通の一般女子ならば、吐血、いや大量出血どころの話ではないだろう。


だが、恋愛は後ろを振り向くこともなく。


おもむろに、誠名の足を、思い切り踏んだ。


メキッと、明らかにおかしい音が鳴ったかと思えば、誠名が足を抑えて悶える。



「恋愛チャン、ひどい……」



しくしくと、すすり泣くようなわざとらしい声が聞こえた。


恋愛はそんな誠名を見て、舌打ちをした後、軽い足取りで涼香の元へ駆けていった。


誠名は、反省していないのか、



「踏まれて、倒れた時、ちょっとパンツ見えt」



その言葉は、恋愛が誠名の上を間違えて(ここ重要)歩いたため、途中で途切れてしまった。