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「はあ……」
ため息をついて、困ったなあ、と心の中で呟いた。
僕、あーゆータイプの女、一番だ嫌いなんだよね。
天然ってゆーか、つかめないってゆーか。
楽しそうな二人の男女の、尾行をしながらそんなことばかり考えていた。
今日はネガティブ思考だな、と自嘲ぎみに笑う。
再び歩みを進めると、僕の肩を叩く手。
誰?
終始不機嫌に、眉を寄せる。
相手の手を見てみれば、ゴツゴツした大きな手だった。
男じゃん……。
「……なに。」
「ねえねえ、君可愛いね♪」
「は?」
こいつ、馬鹿だな。
てか、ズボン履いてるよね?
僕、男なんだけど?
イライラしつつも、相手にするのも面倒なので手を振り払い歩き出す。
無視が一番。
「つれないなあ、おいでよ♪」
「触んな」
「強気だね♪♪」
ブチッと、何かが切れた音がした。
今日はイライラ絶頂期。
あー。
何なのこいつ。
僕は、男の腕をつかんでひねりあげる。
「いだだだだっ!!」
「僕に触るな。」
「え、今、僕って……」
「気づかなかったのかよ。僕は男だよ」
そう言えば、相手は絶望したように走り去っていく。
馬鹿じゃないの。
走り去る男を見下げながら、僕は心で言った。
触れられた肩を、手ではらう。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
こんなの、まるで、“あの日”の──
【……零涙】
「っ!!」
我にかえれば、あの2人の姿はなかった。
うわ、最悪、見逃した。
辺りを見渡せば、屋台が並んでいる奥に、暗い木陰があった。
人通りが、少ない。
まさかね。
そう思いつつも、足は勝手に進む。
「ちょ、待って……くすぐったいよ//」
男女のそんな会話が聞こえ、足を止めた。
見れば、やっぱり。
あの女、だ。
しかも、運悪く真っ最中。
抵抗ないのかよ。
最初は呆れたが、次に耳に入った声を聞いて。
僕は、目を見開いた。
「あっ、やぁ……っ」
女の甘い声だった。
甘い、嬌声。
その声を聞いて、急に頭をぶつけたような痛みが襲う。
────嫌だ。
聞きたくない。
次第に胸が、苦しくなる。
そして、聞こえてきたあの日の彼女の声。
【零涙、好きだよ】
ゾクッと、背筋に冷たい汗が伝った。
嫌だ。
嫌だ。
聞きたくない。
聞きたくないッ!!
【私には、零涙しかいないの】
「うるさいっ、出てくるなっ!!」
嫌だ。
嫌だ。
嫌だッ。
気持ち悪い。
気持ち悪い……ッ。
「……僕にっ、触るなっ、」
僕を大好きだって?
僕を愛してたって?
【零涙って、案外つまんない男】
「───っ、あ。」
─────嘘吐き。
そう心が、呟いて、視界が真っ暗になった。
視界が反転したと思えば、耳に聞こえた、鈍い音。
何かが、倒れた音だった。
「……零涙くん!?」
あの女の声が、微かに耳に響いた気がした。