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「──っ!?」
今、あの女の叫び声が……。
いや、俺には関係ないだろ。
なぜ、今更あんな庶民に構う必要が……
【っ……最低】
「っ、」
今日は、とんだ厄日だ。
顔を歪め、足早に声がした方に向かう。
暗闇をかき分け、見なれた人影が見えた。
いつもより小さく見える背中が、静かに震えていた。
泣いている……?
まさか、さっきの奴にやられたのか?
「おい、大丈夫か?」
「っ……ひっく」
さっきの奴は───。
視線を落とせば、大きな物が転がっていた。
何だ……?
目を凝らせば、それは、人。
人が、地面に突っ伏するような形で転がっていた。
まさか……と、女の方を見れば。
「っ、怖かった……」
と、涙目ではいるがその足は、地面に倒れ込んでいる男の腹に見事に入っている。
ため息をついて、状況を察する。
つまり、俺が来る意味は無かったのだな。
「っ、ひっく……」
泣いているのか。
俺には、こいつが下の男を襲ったようにしか見えないのだが。
というか、あんなに強気な女でもやはり怖いものは怖いのだな……。
そっと、しゃがみ込めば、びくっと意外にも小さな肩が震える。
「……泣くな」
「っ、怖かった……っ、うう」
人通りが多くなってきたな。
辺りを見渡せば、花火が間近になりこんな薄暗い木陰でも人が集まってくる。
これは、厄介だな……。
小さくため息をついて、遠慮がちに女の肩を掴む。
女は、「え?」と驚きの言葉を出す。
その言葉を無視し、上に羽織っていたジャケットを奴の頭にかけた。
そして、自分の胸に奴の肩を引き寄せた。
「え、いきな、り、何っ……?///」
動揺しているのか、そいつは途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
俺は、またもため息をついてそいつの顔を見ずに答える。
「別に……、そのいかにも庶民臭い泣き顔を見たくないだけだ。」
「え……、もしかして、私が泣いてるから人に見られないように……?」
きょとんとした顔で、こちらをのぞき込むそいつの瞳。
俺は、頬杖をつき、少し星空が出かかってきた天を仰ぐ。
「……さぁな」
そう答えれば、女は、クスッと笑う。
何故笑う。
よく分からない。
女は、涙を拭うと、小さく呟いた。
“ありがとう”
笑みを見せながら。
「……勘違いするな、礼はいらん」
そう無愛想に、答える。
かすかに耳が熱かったのはきっと。
きっと────
気のせいだ。
ああ、そろそろ、花火が始まる。
早く、あいつらの所に行かねばな。