【2020@新幹線】

 ツアーの初日は、大阪からだ。

 あたしたちバンドと、スタッフの一行は、新幹線で移動中だった。

 10号車にあるトイレに行こうと席を立つと、充晴の横がたまたま空いていたので、あたしは横に座ってみた。

「グリーン車っていいね~」

「そう?別に俺は動けばなんでもいい」

「あらそう。そういえば、彼女は元気なの?あの威勢のいいお姉さん♪」

 あたしの脳裏に、以前充晴と共にバンドを組んでいたときの女性メンバーの顔が浮かぶ。

 充晴の次の彼女は、なぜかあたしと犬猿の仲だった、あの女性メンバーなのだ。

「まぁ、相変わらずおまえのことは気に食わないみたいだけどね」

「そりゃそうでしょうね」

 あたしは不敵な笑みを浮かべて、再度トイレに向かった。

 あの女性メンバーが、あたしのことを嫌っていたのは、充晴のことが好きだったからなのだ。
 
 その理由をあとから知ったあたしは、妙に納得したものだ。