時が経ち、お昼休み。
保健室の隣の小部屋では神崎奈々が教師たちから説教を受けていた。
中でも学年主任の白野先生はかなり立腹しているようで、ただ黙りとしている。
新任女教師で、担任教師の松原先生はおずおずと立っていた。
気弱な様子で神崎奈々とそれを囲む先生たちを見つめている。
神崎奈々は涙ぐんだまま、立ち尽くしていた。
一人の先生が神崎、と話しかける。
授業を中断されたあの教師だ。
胸ポケットからプロフィール紙を取り出して、彼女に突きつける。

「おい、これは何だ?授業中に関係ない物を出して。
隣の席の佐東が困ってたぞ。
書いてくれないからって彼女のノートも破ったんだな。」

神崎奈々は違うもん、と叫んだ。

「私そんなことしてない‼
これは苛めてくる皆が私に仕組んだことなの‼」

何を言うか!とプロフィール紙をさらに先生は突き出す。

「嘘をつくな!俺はちゃんとお前が佐東のノートを破っているところを見たぞ‼
クラスメートの皆もだ‼
あれは自分自身で破っていたんだろ?!」

「本当だもん‼」

神崎、と白野先生は重く口を開いた。

「佐東は心臓に重い病気を抱えているから、あまり派手なことをして驚かさないでくれ。
お前が起こした行動で彼女がまた発作を起こしたらどう責任を取るんだ。」

ぴくり、と神崎奈々が行動を止める。
彼女の顔つきが一瞬で豹変した。
俯いて先生たちは気づいていないが、
彼女が浮かべているのは怒りの表情だ。
しかし、すぐに泣き顔を取りなした。
えぐえぐと泣きながら手首のリストバンドに手をかける。

「先生、アタシもう無理だよ……、
家庭ではお母さんに殴られて……、学校では皆に苛められて……、
もうどうすればいいのか分かんないの……」

リストバンドを外すと、そこには無数のリストカットの跡があった。
先生たちがぎょっとする。

「明希ちゃんを見てたらね、アタシ彼女と仲良くなれると思ったの。
今までの暗い日常を、彼女と変えられると思ったの。
辛いから、もう待ちきれなくて彼女にプロフィール紙を渡した。
でも彼女に無視をされて、心がひどく抉れたような気がした。
裏切られたような気がしたの。
だから彼女にひどいことをしちゃった。
彼女にはこの事を謝るわ。多分後悔してると思うの。
アタシはちゃんと仲直りして、彼女と友達になるわ。
そしたらもう二度とこんなことをしないから……」

先生たちが顔を見合わせた。
白野先生はため息をつく。

「神崎、悪いが今回は全てお前が起こした問題だ。
だからきちんと反省して、1週間の謹慎を受けるように。
佐東にはちゃんと謝るんだぞ。
心からな。」

神崎奈々は黙っていた。
ただただ、啜り泣いていた。