授業が始まり、神崎奈々は戻ってきた。
太っているからか汗だくだ。
ギャルたちがそれを見てクスクスと笑っている。
私は無関心のふりをしながら、彼女と目を合わせないように板書をノートにカリカリ書き写していた。
すると、隣からぬっと何か紙が渡された。
気が付くとそれはプロフィール紙。
私はシャープペンを止める。

「書いて、それ。」

小声で彼女がささやいた。
私は今授業中だから、と答える。

「いいじゃんそんなの。書いてよ。書きなさいよ。」

彼女は鋭く私を睨み付ける。
ぎょっとして、私はシャープペンを震わせた。

「アタシ友達になりたいの。気になってしょうがないの、あんたのこと。
今じゃなきゃ、やだ。」

私は生唾をごくっと飲んだ。
だけど麻衣の言葉を思い出して、再び黒板に目をやり、ノートを書く。

その時だった、彼女は私のノートを取り上げた。
ビリビリと破り、舌打ちをする。
私は唖然として、何も言葉が出なかった。
先生が振り返り、こら!と怒鳴りつけた。
皆の視線もこちらに集中する。
すると彼女はうえええ、と泣き出した。
破いたノートを私の机の上に叩きつけて教室を飛び出していく。
先生は彼女の背に大声で怒鳴った。

「神崎こら!出ていくな!くそ、またか‼」

そして、教室に設置されている電話をかける。

授業の中断を見越し、亜美が駆け寄った。

「明希!あんた大丈夫?!」

「う、うん、全然、大丈夫……。」

「うわ、なんなのこのこれ!あいつひどいにもほどがあるでしょ……‼」

電話を終えた先生も近寄った。

「佐東、一体何があったんだ?」

私は震える声を絞り出した。

「神崎さんにプロフィール書けって言われて……。
無視したら、ノートを破られて……」

先生ははー、とため息をついた。
辺りもざわつく。
プロフィール紙を手に取り、先生は腕時計を見た。
クラスに呼び掛ける。

「授業はそのまま続ける。誰かルーズリーフを持ってたら佐東に1枚あげてくれ。
神崎は当分謹慎だな。」

後ろの席の子がルーズリーフを差し出してくれた。ありがとう、と私は感謝しながら受け取る。亜美も席に戻った。

授業が進む間、窓の外を不意に見やると、
男教師たちに捕らえられて暴れている神崎奈々が見えた。
背筋がゾッとした。