完全に怒りが勝った。
 
 
 
 
 「はぁ?何言ってんだよ!こいつが借りたっつっただろ!」
 
 「だからなんだ!お前の名前だろ!」
 
 「ていうかオメーが働かねーからだろ!働けよ!」
 
 
 「もうやめて!全部私が悪いの!」
 
 
 「いや、こいつが悪い!名前を貸すっていうのはこういうことだ」
 
 「うるせーテメー!偉そうに言ってんなよ!」
 
 「お前誰に口聞いてんだ?俺は親だぞ!」
 
 「笑わせんな!テメーのこと親なんて思ったことねーよ!」
 
 
 
 
 
 子供にはすぐ手を挙げていた父がなぜかこの時はしなかった。
 
 
 
 
 
 「もういい!こんな家に居れない!」
 
 「なら出て行け!」
 
 「うるせー!テメー一々もの言うな!死ね!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ねぇお願い、出て行かないで・・・」
 
 「テメーもうるせーんだよ!ざまぁみろって思ってんだろ!」
 
 「そんな・・・本当にごめん・・・」
 
 「お前はアタシよりアイツの方が大事なんだろ!」
 
 「アタシは貴方が居ないと生きて行けない・・・」
 
 「そりゃそうだろ、金借りてくれる奴が居ないとだもんね!」
 
 「そうじゃない!」
 
 「本当にもういいよ・・・」
 
 「やだ、行かないで・・・」
 
 「ていうか本当に・・・アタシのこと産まないでほしかったよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 大声で叫びたかった。
 少しは常識というものがあると捉えていいのか。
 
 溢れ出てきて止まらない、いろんな感情を抑えられずに
 声を殺して泣いた。
 
 嗚咽を堪えることが出来なかった。
 
 
 
 団地のすぐ下にある公衆電話の中でしばらく泣いた。
 
 1人だけ居た親友に電話していた。
 
 
 
 
 
 
 「ごめん・・・もう限界だ・・・家出てきた・・・」
 
 「はいよ~!どこに居るの~?」
 
 
 
 
 
 敢えてなのか明るい口調のその人は10分もしないうちに
 アタシを自分の愛車に乗せていた。
 
 
 
 
 
 「こりゃ軽くドライブだね~あはははは~!」
 
 「・・・。」
 
 「アンタと一緒に暮らせるなんて楽しみ過ぎるでしょ~」
 
 
 むしろこの日を待っていたかのような、そんな口調で言ってくれた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「は~い、みんな~!連れてきたよ~!」
 
 「アンタ達遅いから食べ始めっちゃてるよ!」
 
 「おいおい、待っててくれよ~」
 
 「うるさい!いいから2人共座ってさっさと食べな~」
 
 
 
 
 
 
 死ぬほどホッとした。
 
 それと同時に、苛つくほど親友が羨ましくなった。
 
 
 
 
 
 
 

 アタシの啜り泣く声を、この家族は掻き消してくれた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「私達みんな8時前には仕事で出ちゃうからアンタ洗濯と掃除頼むね!」
 
 「ごめんねおばさん・・・」
 
 「まぁしばらくゆっくりするさ!」
 
 
 笑顔で階段を降りて行った親友のお母さんが下から叫んでくる。
 
 
 「おばあちゃんには11時にお昼の用意お願いね~!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 アタシは死んで、ここは天国なのか?
 おおげさではなくそう感じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 借金取りの来店、返済催促の電話。
 店の人達は良くしてくれたが、アタシはそこから逃げていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 一切電話に出ないアタシの携帯には、泣きながら帰宅を促す母から
 毎日留守電が入っていた。
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 「旅行行こう~!!」
 
 
 
 突然の提案で驚いた。
 
 元気のないアタシを思ってのことだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「運転荒いんだよ!」
 
 「じゃあお前が運転しろよ!」
 
 
 
 
 
 「今日お天気で良かったよね~」
 
 
 お父さんと喧嘩している親友。
 
 お構い無しに後部座席でアタシに話してくるお母さん。
 
 
 
 
 
 みんなで大きなダムを見たり、トロッコ列車に乗ったりした。
 終始笑い声が絶えず本当に楽しかった。
 
 お母さんはこの日の為、アタシに洋服まで買ってくれた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 みんながアタシを受け入れてくれればくれるほど申し訳ない
 気持ちで苦しくなった。
 
 居心地の悪さまで感じるようになっていた。
 
 
 
 
 「せめて働こう、お金を入れよう」
 
 
 
 
 
 無料の求人誌をペラペラめくる毎日。
 
 
 
 
 アタシが来る前から呆けが始まっていた親友の祖母。
 
 アタシが過ごしていた2階に上がって来ては
 
 「泥棒!」
 
 と騒ぐようになった。
 
 
 
 
 それがきっかけとなり、みんなが仕事で居ない昼間はアタシも
 外に出るようになった。
 
 
 
 
 近所の図書館で本を読んだり、公園をフラフラしたり。
 
 
 
 
 そんな時ふと母に会いに行った。
 
 
 
 
 
 
 
 「全然電話出てくれないから心配したんだよ!」
 
 
 
 
 仕事中だったにも関わらず号泣している母。
 
 
 
 
 「ていうか帰る気はないから」
 
 
 
 
 
 
 
 
 「待ってるから」
 
 母の声を背に、その場を後にした。
 
 
 
 
 なぜ母に会いに行ったのかは考えないようにした。
 
 
 
 
 
 バカなアタシはこれを期に母からの電話を取るようになった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「本当にごめん。助けてほしい!」
 
 
 
 もう反抗する気もなくなってしまったのか。
 
 
 
 
 
 
 「いいよ、わかった。夕方会おう。」
 
 
 
 それだけ言って電話を切った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 無職の娘に金をせびる。
 相当困っていたのだろう。