アスファルト・・・どこを見ても同じ色
 固くて冷たい
 
 雨が降ると色が濃くなる・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 思い出してみる。
 
 
 
 
 
 古い団地に暮らしてた。
 階ごとに広い踊り場があり、向かい合う2つの棟を繋いでる造り。
 
 
 
 (子供が子供を産む)
 うちはまさにそれ。
 父19、母17の時アタシが産まれた。
 
 「まだ若いから」
 言い訳して好き勝手やってる人達だろう。
 家には父の友人達から母の兄弟までいろんな輩が毎日たむろしタバコ
 をプカプカやっていた。
 そんな濁り淀んだ環境からアタシを救ってくれたのは
 アタシの唯一の心の支えだった母方の祖父母。
 自分達が暮らしていた、その古い団地にアタシ達家族を呼んだのだ。
 
 
 団地に越してきてすぐのこと。
 寒い冬の日、珍しく降った雪を4階にある部屋の窓から顔を出して
 家族みんなでボーっと眺めていたのを覚えてる。
 
 
 
 
 
 
 唯一父に食わせてもらっていたと言える幼少期。
 父は鳶をしていた。
 毎日朝早く家を出ていた。
 
 赤ちゃんだった妹が居たからか、まだ4~5歳だったアタシは幼馴染みの
 男の子と毎日2人で保育園に通った。
 お互い手をギュッと握り合い20分掛けて雨の日も風の日も歩いた。
 
 
 
 アタシが年長の時だったかな。
 父方の祖父が何かで揉めていた父をぶっ殺すと、日本刀片手に
 運動会の日乗り込んできたことがあった。
 
 怖かった。
 ただひたすら怖かった。
 父が殺されてしまう怖さではない。
 なにかもっと深い深い恐怖を感じた。
 
 
 父は3人兄弟の長男で下に弟と妹が居た。
 祖父の家には、祖父、父の妹、祖父の再婚相手が暮らしていた。
 アタシが言えるのか、いかにも何かあるといった家族だった。
 祖父の再婚相手は綺麗な人で″お母さん″ではなく″女″という感じ
 の人だった。
 父の妹、アタシの叔母さんを奴隷のように使っていたみたい。
 でもなぜかアタシはこの人を嫌いになれなかった。
 むしろ優しくて好きだった。
 アタシのことは(見えない存在)として接する祖父とは違い
 この人はなぜかアタシを可愛がった。
 
 この人を本当の祖母と思い過ごしてきた。
 
 いくつの時か、父の本当のお母さんの家に連れて行かれた。
 優しそうなおばあさん。
 狭くて暗くて少し散らかったワンルーム。
 居心地が悪く、座れなかった。
 
 壁に掛けた写真を眺めたり、茶箪笥の上に置いた小さな置物を
 指でつついてみたりしながら過ごした。
 時折ふと、その人の方をちらっと見てみたが最後まで目は
 合わなかった。
 
 その後2~3回会いに行ったが、程なくして病気で死んだ。
 
 
 
 本当の祖母の死の先か後かもう思い出せない、小さいアタシを
 虐めてるのか可愛がってるのかわからないが、よく遊んでくれた
 父の弟がバイク事故で亡くなった。
 「本屋に行く。」
 最後に聞いた叔父の声。
 
 小雨の降る肌寒い日だった。
 
 この時初めて父が泣いているのを見た。
 はっきり覚えていないが母はそうでもなかった。
 昔から叔父のことをあんまり良く言わなかった母。
 嫌いだったのだろう。
 
 叔父が亡くなったのは18歳。
 葬式には可愛いお姉さん達、モヒカンのお兄さん、たくさんの人が
 来て皆泣いていた。
 
 その中でも1番憔悴しきった様子で祖父に支えられながら居たのは
 祖父の再婚相手。
 そう、アタシの祖母。
 
 
 
 「どういう感情?」
 「すごい演技力ねぇ。」
 「わざとらしい。」
 
 うちの内情を知っているのであろう近所のおばさん達が話していた。
 その中から母の声も聞こえた気がする。
 
 
 まだ幼く人の死を理解出来なかったアタシは、泣いている大人達を
 見てなんだかすごく怖かった。
 昨日まで鬱陶しくちょっかいを出してきた叔父が丸坊主になって
 横たわっている。
 パンパンに腫れた顔で目を瞑って。
 その周りに泣いているたくさんの大人。
 
 さらに幼い妹はニコニコしながら叔父の唇を綿棒のような物で
 潤わせていた。