私は囁いた。

「ねぇ、ルリジサ。きみ・・・セカイの王になりたいって、そう言ってたよね?」

彼の顔に、自分の顔を近づけて。

「私に勝てる、覚悟がある?」

その右眼の黄金を至近距離でじっと見つめて、見据える。

それから程なくして、ルリジサは私の瞳を見つめたまま、我慢しきれなくなったというようにぶるりと身を震わせた。

「・・・ほら、最初から、無理だったんだよ」

あの日、私の封印が解けて、私の瞳にルリジサが、エルフが皆動きを止めたときから。私はなんとなく、わかっていた。

妖精王“ティターニア”の血を受け継ぐ私は、このセカイを導く運命にあるのだと。

あの言い伝えの通り。

項垂れるルリジサは、現れた時と同じようにぐにゃりと空間を歪ませて、消えた。私たちは追いかける術を持たない。彼が何をどう感じたのかは、彼だけにしか、わからない。

私はすっくと立ち上がった。そのまま塔の端まで歩く。

ヘルが全てを察しているように、私に追随する。

そう、だってもう、ここからは―――シナリオ通り。

私とヘル、ふたりで出した答えだから。


ヘルが私を抱えて空に舞う。今度はそんなに高く上がらずに、滞空する。

地上の何人かが、私たちに気が付き始めた。それはまるであの夜のような情景だけど、違う。

決定的に違うのは、私がひとりぼっちじゃない、ってこと。―――ふたりぼっちでも、ない。


私は瞼を閉じて、意識を集中させた。タリオにもらったCharmの力を、最大限に引き出すために。

そして、私の声を、聴いてもらうために。

きぃん、と空気が張り詰めた。私は目を開けると同時に、力を解放した。

私を中心にずうっと向こうまで、私の気配が伝わっていく。皆に見られている、気配がする。

私はそれを確認して微笑んだ。そして、外套からダイモスに貰ったブリギッドを、取り出して抱えた。


私は、大きく、大きく息を吸った。