「浴衣を着るのは、年に1回か2回じゃない?」
制服を脱いだ私の体に手際よく浴衣を羽織わせるお母さんが、手の動きを止めずに話し出す。
「お祭りは特別なイベントなんだから、絶対浴衣にしなくちゃ」
鏡の向こうで、お母さんが微笑む。
私は少し唇を尖らせた。
「それにしてもさ、毎年思うんだけど、お母さん浴衣の着付けうまいよね」
「高校の時に習ったからねぇ」
私は、『あぁ』と短く答える。
お母さんが浴衣の紐をきつく結ぶとき、苦しくなるから長く話せない。
「料理、裁縫、着付け。ほら、お母さん生活科学科だったから。専門学科のある女子高、お母さんの時代はすごく人気があったんだけとね」
そう言って、お母さんがおどけて笑う。
「今日は七夕だから、タイミングがちょうどいいと思うんだけど、浴衣を着るときには、願い事を言わなきゃいけないのよ」
「えぇ? なにそれ」
そんなこと初めて聞いたよ。
浴衣を着るときに願い事を言うなんて。


