【赤ずきんにはお父さんがいませんでした。
どこかへ行ってしまったのです。

「ねえお母さん。お父さんは?」

そう聞いてもお母さんははぐらかすばかりで答えてくれません。

「お父さんに会いたい…」

赤ずきんにはお父さんの記憶が少し残っていました。
だからこそ、会いたいと思ってしまうのです。

「赤ずきん、今日は紹介したい人がいるの」

そんな時、お母さんは赤ずきんにそう言いました。

「紹介したい人?」

目の前に現れたのはお父さんより少し若い男性でした。

「お母さんが今、赤ずきんの次に好きな人なの」

それは、お母さんの再婚を表していました。

「赤ずきんちゃん、初めまして」

でも、赤ずきんにとってお父さんは1人だけです。

「……」

お母さんの幸せを考えても、素直に頷くことができませんでした。

それから、何度もその人は赤ずきんの家に訪れるようになりました。

赤ずきんが慣れるように、というお母さんの考えでしたが実際のところ赤ずきんは疎外感を覚えていました。

ある日の夜、赤ずきんはこっそり家を抜け出しました。

それでも2人は話すことに夢中で気付きません。

「はぁ…」

赤ずきんは家のそばにある川辺へ来ました。

ホタルの光が幻想的な雰囲気にしていて、川に映った自分の顔を眺めながらため息をつきました。

「どうかしたのかい?」

どこからともなく声が聞こえました。

とても落ち着く声です。

「お母さんが新しい男の人を連れてきたの」

「その人が嫌い?」

「嫌いってわけじゃないけど…お母さんがお父さん以外の人を好きになるのが嫌なの」

顔は見えないけれど、心の中にたまっていた膿を出すことでスッキリしました。

「その人が嫌なわけじゃないんだね?」

「うん」

「お母さんが好きになるんだから、きっといい人だよ。
ほら、夜は危ないしお母さんも心配してるから帰りなさい」

その人の言う通り、赤ずきんは家に帰ることにしました。

すると、家の外にはお母さんと新しい人が赤ずきんのことを探していました。

「赤ずきん…!!良かった…」

2人は赤ずきんがいなくなったことに気付くと必死に探し回って息が切れていました。