「ど、どうしよう…
お腹痛くなってきたかも…」

「な、なあ!変なとこねぇか?!」





そうしてやってきた大会当日。


かえで君と昴は初めての大会で緊張に襲われまくっている。





「大丈夫だよ、2人とも!
楽しんで、いつも通り頑張ろう!」





今ではこんな風に言える私だけど、去年は2人よりも酷かったな…



まず演劇部に入ったのも、自分の大根役者ぶりを治したかったから。


かえで君を助けたあの日から、かえで君にげって顔をされたあの日から…心にひっかかっていた。


もっと、上手く演じられたらどんな顔をされていたんだろう。

すごいって思われたら嬉しいな…


だから私は高校で演劇部に入った。





「大会になると、いつも鈴のアレを思い出すよ」





向川部長が言うのは、私が初めて台本読みをした時のこと。


『…ワタシハカレノアトヲオッタ』

『り、鈴…?』

『シカシ、カレガワタシノホウヲフリカエルコトハナカッタ』

『ストップストップ!』


気付けばその時の部長は両手を振って私を止めさせ、周りの部員たちは唖然としていた。


もちろん、向川部長も。


…でもその後、必死に笑いをこらえていたような。





「わ、私だって一生懸命だったんです!」

「わかってるよ。
でも…なあ、誠?」

「そうですね…
あの時だけは、演劇部に入るのをやめた方がいいんじゃないかと思いました」

「まーくんまで…」





私の味方をしてくれると思っていたまーくんからも攻撃を受け、恥ずかしくてたまらなくなった時。





「なになに?
鈴ちゃんがどうかしたの?」





緊張しながらも、かえで君が私たちの輪に入ってきた。





「入りたての鈴はすごかったって話だ」

「そうなんだ!」

「…多分かえで君が考えているのとは逆方向にね…」





私がそう言うと、中学生の時のことを思い出したのか





「あっ…」





と察するような目をされてしまった。





「それが今やこの演劇部になくてはならない女優だもんな」





ニカッと笑ってこっちを見る部長だけど、それって…女部員が私だけだからとかじゃないんですかね?