「鈴姉ちゃんの中で俺はいつも弟なんだ…」





ショッピングモール内の広場のようなところを通ったときに、かえで君は一人立ち止まって呟いた。


地面に落とすみたいな言葉の発し方だったけど聞き取ることは容易だった。





「え?かえで…君?」





いつもの元気さとは正反対の悲しく切ない声で言う彼の肩に私はそっと触れようとした。


でもかえで君はその手を掴んで





「鈴姉ちゃんは俺のこと一人の男としては見てくれないじゃん…!」





顔をあげたかえで君の視線が私に訴えかける。


…こんな顔、初めて見た…





「最初は弟でも鈴姉ちゃんと一緒にいられるなら良いと思ってた。
…でも今はそれだけじゃ嫌なんだ!
ちゃんと恋愛対象として捉えてほしい…」





かえで君から目を逸らせない。


胸にひしひしと伝わるこの感じ。

締め付けられて痛い。


でも、かけるべき言葉も見つからなくて私はただ黙っているしかなかった。


かえで君の初めての本音に驚きと申し訳ない気持ちでいっぱいで、じわじわと目頭が熱くなっていく。


それでも言葉は上手く出てこなかった。





「…ごめん、今日はもう帰るね…」





かえで君はくるりと後ろを向いてから、こちらを見てひらひらと手を振った。


ぼやけた視界で彼がどんな顔をしていたのかはわからなかった。


ただ、鼻の詰まったような彼の声だけが耳に残った。