恋はたい焼き戦争



「慎ちゃん~!久しぶりだねぇ」





そう言って近付いてきたのは深い紫のような暗い猫毛の男子。


背も向川部長と変わらずでプラス細くてすらっとしている。





「な~に~?彼女さんとのデート邪魔しちゃ悪いから話しかけなかったのに」





え、彼女?!





「ち、ち違いますよ!
私はただの演劇部の部員です!」





私がそう言うと、な ~んだ!よろしくねと言ってにこっと笑った。





「ああ、鈴。悪いな!
こいつは紺野 匠(こんのたくみ)。昴の兄貴だよ」

「え、本当に?!
ぜ、全然似てない…」





髪の毛も顔も、もちろん性格も。

昴とは何一つ似ているところがない。


そして私が似てない、と言うと匠さんの顔から笑いが消えた。


え、どうしたんだろう…?


でもそんな心配もよそに、すぐさっきの顔に戻って





「鈴って…もしかして昴と同じクラスの?よく話聞いてるよ~!
面白い子がいるってね」





なになに、私の話が出てるの?


ちょっと内心嬉しく思う。


…ん?嬉しい?何で?


もやもやが残ったものの匠さんとは少し話してからすぐに別れた。





「匠な、花園高校の生徒会長なんだ」





花園高校っていうとこの辺にあるお嬢様、お坊ちゃん学校。

名前の通り花園のような学校なんだそうだ。


私には縁すらないから行ったことないけど…





「あんなおね…ふ、ふにゃっとした人が生徒会長なんですね!」





や、やばい…危うく本音が出るところだった…





「あぁ…昴と同様、表向きの顔を持ってるんだ。学校ではきっちりしっかりした人格者。
あの兄弟は他が思ってるよりずっと苦労してるんだ」





部長はそう言ってから続けて





「だから俺は少しでもあいつらの心の拠り所になれればいいなって思ってる。
まぁ、もうその役目も終わりそうだけどなぁ?」





そう私の顔を覗きこむけど、どういう意味か私にはよくわからなかった。

そのあとの言葉を待ったけど、生憎それ以上の言葉が出てくることはなかった。





「さーてと…全部買えたことだし帰るか!」

「はい!」





私たちは学校への道を並んで歩いた。