恋はたい焼き戦争



「しっかりして!」





なんて言いながら2人を居間まで案内する。





「いや、まさか…」

「やっべー…お前すげぇ面白いな!
流石、俺が見込んだだけあるわ!!」





驚きを隠せない向川部長と、わくわくを隠せない昴。


俺が見込んだって何よ?





「あ、そう!今日聞いたんだから…」





リレーのことについて話そうとしたとき





「すいやせん!ちょっと良いっすか!」





襖を叩く音が聞こえて





「いいよー」





私の話は少し中断になった。

襖を開けるリュウの後ろにはお父さんが立っていた。





「客とは…もしかして昴君か?」

「え、お父さん知ってるの?」





ああ、と答えるお父さんが言うには昴のお父さんとは昔馴染みなんだそうだ。





「その頃の寅之(とらゆき)、お前のお父さんとは良く辰と寅で干支コンビなんて言われたよ」





遠い目をしながら続ける。





「お前が生まれてからも何度か家に行ったりしていたが…覚えてないよな。
鈴とも昔一緒に遊んでたんだぞ?」





私と昴、両方ににこっと笑いかける。


そんなに昔から知ってたんだ…


少し間があってからお父さんは邪魔してすまなかったな、ゆっくりしてってくれと言って去っていった。





「すごい偶然だな…」





そうまーくんが話し出して初めて自分が息をしていなかったのに気付いた。


ちょっと衝撃的だったな…


昴はと思ってそっちを見ると、にやっと笑って


「運命の再会ってやつじゃねーか!」





とハグをしてきそうになったので、必死に止めた。





「ああ、で。鈴はさっき何を言おうとしてたんだ?」





昴は元の場所に戻っていく。


向川部長、ナイス。

凄く忘れてた!





「そうそう!先生から聞いたの。
リレー出る条件として私を指名したんだって!?」





そう言うと、くははと笑って





「お前と走ってみたいんだよ、足速いんだし良いだろ!」





その言葉に対して、まーくんが少し強めの口調で言う。





「お前は鈴を振り回しすぎだ。
鈴は家のことを隠さなければならないんだ。これ以上、変に不安要素を増やすつもりなら俺は黙ってないぞ」





まーくんが凄く頼もしく見える。





「何でそこまで私にこだわるの?」





最初から一番気になっていること。


私がそう聞くと昴の顔から笑いが消えて少し真面目な顔になる。





「お前が今まで会った女と違うからだよ」





もっと詳しく聞きたかったが、これ以上は言いたくない。

そんな顔をしていて聞けなかった。


彼をよく知る向川部長も顔を横に振って、この話はここまでになった。





「そこまで言うなら出るよ。
でも、あんたが出る条件としてじゃなくて皆がそれを望めば。ね?」

「…鈴!本当にいいのか?」





まーくんは心配そうな顔をしてこっちを見たけど、私は大丈夫とだけ答えた。


そして、このまま話し合いはお開きになって2人を駅まで送っていった。