恋はたい焼き戦争



学校の正門を通ると目の前に


【森学体育祭まであと1週間!】


という垂れ幕がかかっているのを見た。





「もうそんな時期かー…」

「去年は凄かったな、何人抜きしたんだっけか?」

「え、なになに!鈴姉ちゃんリレーのアンカーしたの?!」





去年、クラスでは1番足が速くてリレーのアンカーなんか任されちゃったりしたんだけど…


そういえばもう少ししたら体育祭の競技決め始める頃か…



隣でかえで君が今年もリレー出るの?!とキラキラした目で見つめてくる。


私自身、走るのは嫌いじゃないし皆から頼られるのも素直に嬉しい。





「んーどうかなー…私は…」





嬉しいけれど誰かから嫌な風に思われそうで、それがきっかけとなって家のことがバレたら…と怖くなってしまう。


内心もやもやしながらも、かえで君とは別れて教室に入った。


いつもの如く(となってしまっている)、紺野君はすでに教室にいて





「おはよう、鈴ちゃん☆」





はい、王子様。

周りにいる女子もその笑顔を見てぽわっとなっている。





「おはようー」





うん、もう慣れちゃった。

この人の扱い方もわかった。


だから、大して気にしないことにした。





「おはよ〜鈴!」

「おーおはよう、あかり!」





もうすぐ体育祭だねーなんて話をする。


あかりも足が速い方で去年のリレーのバトンを受けたのはあかりからだった。


今年もリレー出ちゃう?!と言うあかりに合わせて私もきゃっきゃと騒いでいると、ぬっと紺野君が入ってきた。





「なになに、2人とも足速いの?俺も速いんだよー!」





私は突然入ってきたことに少し驚き、あかりは入ってきたことに驚いていた。





「足も速いなんて格好いい…!」

「やっぱり王子様…」





そんな声が聞こえてますます紺野君に対する好感度が上がっている。





「あーーそんなことじゃなくてさ」





ぽんと一つ手を打って





「俺ね、演劇部に入ることにしたんだ☆」





ウインクをして言う彼に私は頭が追い付いていなくて、ただぽかんと口を開けているだけになった。



この話し声が聞こえたのか、まーくんも私の席の方に来た。





「え、お前…本当なのか?」





と言う顔は少し嫌そう。


まーくんは静かなところが好きだ。

騒がしいのはあまり好きじゃない。





「昴君が演劇するなら応援行かなくちゃ!」

「昴君の王子様役見てみたぁーい」





今まで演劇部は静かに活動を行ってきた。

荒波など起きない落ち着いた環境で。


紺野昴という男が入ることでもうそんな風に活動できなくなるかもしれない。


常に誰かがいる。

注目を浴びる。


もちろんそれは演劇として良いことなのかもしれないが私にしてみれば地獄だ。


人から見られることが増えれば良く思わない人も増えそうで…





「ごめん、実はもう出しちゃったんだ!」





そう言う彼に私達はただひたすら呆然としていた。