「はぁーーー気持ちいいー!!」
いつもなら嫌だと思う強めの風が何故か今日は心地よく思えた。
きっと教室で感じた変な疲労を吹き飛ばしてくれるような気がしたから。
「ご、ごめんね…でも本当にすっごく格好よくて…」
とても申し訳なさそうに謝るあかり。
でもライバルが多すぎて疲れちゃったーと仰向けに寝転がって空を仰ぐ。
「そっか…」
それしか言えなかった。
あの紺野昴という男には何か隠してることがあるような気がして信用ができなかったから。
あかりがあのまま同じことを続ける気だったのなら止めたけど。
「でも女子が凄いよねぇ…
あんなに群がる?!」
あかりは、んーと考えて
「昴君は格好いいだけじゃなくてお金持ちだからね…」
まぁ、あそこにいる子達はみんなそれ目当てだろうなぁー…
そして、ちゃっかり昴君呼びをしているあかりにも違和感を抱きつつ、残り少ない時間でお弁当を完食した。
教室に戻ると紺野君は女子から質問攻めにあっていた。
「昴君はぁ、どこで生まれたのー?」
「お兄さんいるんだよね?格好いい?!」
あぁ…また戻れないなと思っていたら、紺野君は私の席の方にいた女子をどかせてくれた。
「ごめんね、迷惑かけて…
えっと…」
「沢田鈴、です」
そう、私が名乗ると
「ごめんね、鈴ちゃん!」
そう言った瞬間、この辺りにいた全員の時間が止まった。
彼が今まで女子と話してはいても名前を呼ぶことはなかったから。
しかも名字ではなく名前だ。
再び時が動いたかと思えば、周りからの憎悪にも似た鋭い視線を感じて我に返る。
パッと紺野君の方を見ると変わらずニコニコと笑っている。
私にはそれが悪魔の微笑みに見えて仕方がなかった。
…やっぱり、この人苦手だ…

