恋はたい焼き戦争



「あ、あの人…」





部活後、正門のところにいたのは…





「勇輝君…?!」





作った笑顔を浮かべる勇輝君だった。





「鈴!待ってたよ」

「な、なんでここに…」





私がそう言うと勇輝君はこれでもかってくらいの営業スマイルを作り出す。





「みなさんにご挨拶を、と思いまして」





いつもより数段声のトーンも上がっている。


なんだって、こんな挑発するような真似…


私は何事もなく、穏やかに過ごしていたいのに。





「…どちら様ですか」





まーくん、かえで君、昴、向川部長、みんな彼に対して警戒心を剥き出しにしていた。


その状況を勇輝君も快く思わなかったのか、口角がぴくぴくと動いている。





「これは失礼。
僕は鈴のこんや…」





目を大きく見開いて言葉を発しようとした彼の口を押さえる。


…な、何を言おうとしてるんだ!


私がもうすぐ結婚するなんて、みんなには知られたくない。





「…やめて。言わなくていい…から」

「…そう」





みんなには聞こえないような声のトーンで、私の1番の願いを口にする。



誰にも知られないように、みんなとの思い出をたくさん作れるように。





「お願い」

「わかったよ」





すると勇輝君はみんなの方を向いて、





「今日はこの辺で。
それでは、またの機会に」





そう言い残し、去っていった。