するどくてやわらかい




当時僕はもちろん彼女存在は知ってて、むしろ同じ学年で彼女を知らない男子はいなかったんじゃないだろうか。


入学した頃から彼女は有名で、目立っていた。


春頃はまだまだ彼女に話しかけたり、告白をする男も大勢いたはずだ。


近頃ようやくそんな噂は落ち着いている。


「あの」


「えっ、あ、いや。大丈夫です!ボタンくらい!」


「でも」


「元から取れかけだったから、ほんとに気にしないで」


もちろん嘘だ。学ランのボタンってのは結構頑丈についてて、今まで取れそうになったことすらない。



近寄ってきた彼女からさりげなく距離を取る。

俺なんかが高梨さんといるとこ見られたら、次の日なんて言われるかわからない。


ボディーブローは食らいたくない。


そんな僕の考えをもろともせずに、さっき袖から外した彼女の指が、またしても僕の袖を掴む。


「電車」

「えっ」

「まだ10分こない。降りる駅、ここじゃないんでしょ?」



なんで違う駅で降りたことわかるんだ、とか。

少し申し訳なさそうに見上げるのがかわいい、とか。


そりゃこんな見た目してたらモテるよな、とか。

色々考えてるうちに、僕は彼女と横に並んで椅子に腰掛け、学ランを脱ぐためにボタンを外していた。