保健室を出ると咲和先輩がニヤニヤしながらやって来た。


「そっか‥。あなたは大和くんの妹さんなのね。」


「は‥はい、光岡凛です。ご迷惑をおかけしてすみませんでした!」


「いいの、いいの。これも何かの縁だし、また文芸部に遊びに来てね!」


「はい、ありがとうございます!じゃあ、私はこれでいいかな?」


凛ちゃんが私の顔を見て言った。


「うん。凛ちゃん、ごめんね。付き合わせちゃって。」


「ううん。誤解させてたみたいだったから。じゃあ、また授業の時にね!」


そう言って、凛ちゃんは行ってしまった。


行ってしまうと私は、さっきからずっと黙ってる柊人先輩の方を見た。


「‥という話でした。柊人先輩‥納得‥しました‥?」


「そっか‥。妹だったんだ‥。」


‥と1人でブツブツとひとりごとを言っていた。



「でも、よくわかったね。あの子が大和くんの妹だって。」


咲和先輩が私に言う。


「最初は全然、分からなかったです。でも、柊人先輩の言葉で気づいて、もしかしたらと思って聞いたら正解でした。」



そこまで言ったときだった。保健室のドアが開き大和先輩が出てきた。


「彩月。疲れたから、休むって。‥あれ‥凛は?」


「凛ちゃんはもう行きましたよ。」


私は答えた。


「そっか‥。咲和先輩‥お願いがあるんですけど‥。」



「えっ?何?」


咲和先輩はいきなり話をふられてびっくりしているようだった。


だが、本当にびっくりすることは次の大和先輩の言葉だった。





「俺の頬を1発、叩いてください。」



「えぇ!!!?」


全員の口からこの言葉が出た。


柊人先輩はどうか、わからなかったけど主に私と咲和先輩からだ。



「俺は‥知らないうちに彩月のこと傷つけていました。‥だから、さっき柊人先輩、あんなこと聞いてたんですね‥。やっと、理解できました。俺、まだまだです。だから‥そんな俺に喝を入れるためにも、叩いてください!お願いします!」



そんな大和先輩の姿を見て、今回のことを重く受け止めていると感じた。


大和先輩は本当にまっすぐな人だ‥


どこまでまっすぐな人なんだろう。



「わかった。私のビンタは痛いけど大丈夫なの?その覚悟があるなら構わないけど‥。」


「それぐらいの覚悟できてますよ。それにそれぐらい強くないと俺の目は覚めないですから‥。」


そう言って咲和先輩は狙いを定めるために大和先輩の頬をさわり始めた。


「ちょ‥ちょっと咲和先輩、本気ですか!?こんなことしたら‥!」


「伊織。止めるな。俺は咲和先輩に喝を入れてもらわないと気がすまないんだ。」



大和先輩が冷静に手で制した。




「‥本当に大和くんは‥彩月のこと好きなんだね‥。」



そう咲和先輩が呟いた瞬間、大きな音が廊下に響いた。



私は思わず両手で口を塞いでいた。



叩かれた大和先輩は赤くなった頬をおさえることもなく、何事もなかったかのように‥


「咲和先輩!ありがとうございます!!」



丁寧に礼まで言っていた。



私は大和先輩のハートが強すぎて言葉にできなかった。



「じゃあ私、次、授業があるから先に行くね。また部活の時に!」



そう言って咲和も何事もなかったかのように手を振りながら行ってしまった。



「‥‥すごく、ヒリヒリするー。」



あっ‥やっぱり、痛かったんだ‥



「大和先輩。さっきのかっこよかったですよ。大和先輩はやることが男前ですね。これからも、大和先輩についていきますので、よろしくお願いします!」



私は労いの言葉と決意を大和先輩に伝えた。



「お‥おぉ‥えっ?なんで、今?」


赤くなった頬をおさえながら大和先輩は言った。


「取りあえず伝えたかっただけです。それと、彩月のことは私に任せてください。じゃあ、また部活の時に。」



そう言って私も保健室を後にした。