「‥伊織‥あれはないでしょ‥。」


「はい‥反省しています。」


私と彩月はカフェテリアでお茶をしていた。‥といっても空きゴマだっただけだ。


「いきなり何を言い出すかと思えば‥柊人先輩ひいてたじゃん。」


「ですよね。やっぱり、ひきますよね。‥でも!私はあの先輩に会ったときからあの人を小説の主人公にしたいと思ったんだよ!」


「伊織。あんたはそれでいいのかもしれないけど、柊人先輩からしてみれば迷惑なだけだからね。」


きついことを言う彩月。


その通りかもしれない。だけど‥


「でも‥でも‥文芸部だよ?小説見てても、ある人がモデルになってることなんていっぱいあるんだから!」


「それは小説家になった人だけだよ。伊織はまだ小説家の卵だよ。‥あせる必要なんてないと思うよ私は。」


彩月は私のことを心配しているのだと感じた。


「ごめん。ちょっと焦りすぎた。あまりにも先輩が絵になる人だったからすぐにでも小説にしたいて思っちゃった。」


「本当に伊織は‥。じゃあ、悪いて思ってるのなら何かおごってもらおうかな‥。」


「えっ!?あ‥あんまり高いものは許してほしいなぁーなんて。」


私と彩月は笑いあった。





柊人side

向井柊人は中庭の陽の当たる場所で本を読んでいた。

「柊人先輩!」

すると向こうから同じ文芸部で2年の光岡大和がやって来た。

「また本、読んでいるんですか?それも経営の本を。」

当たりだ。

「先輩、それは読書ではないですよー。文芸部なら夏目漱石とか読みましょう!すごくいいですよ。」

「‥いや、今はこれでいいよ。漱石は難しい‥。」

「俺から言わせると経営の方が難しいと思いますけどね。」

こいつも案外、ひかない奴だ。

すると大和の声のトーンが少しだけ落ちた。

「‥先輩、今年入った1年どう思いますか?」

「‥どうって?」

「俺もまさか入部早々、杉内があんなこと言うとは思ってなかったんですけど、柊人先輩はあの言葉どう思いましたか?」

「‥‥。」

俺は振り返る。




「先輩!私の小説の主人公になってください!」

「‥‥えっ!?」

「えっ!!?」

文芸部の部室の中からも声が聞こえた。