「誰、あれ……?」


出て来た黒い服の男に友香が後ずさりをしてそう呟いた。


「知らない」


美夏が左右に首をふってそう言った。


帽子を深くかぶっているから年齢もわからない。


男は右手にスピーカーを持っていて、真っ直ぐ生徒たちの前へと進んでいく。


誰も何も言えないような雰囲気だったが、杏珠は昨日会議室で見た人影を思い出していた。


会議室の中には間違いなく誰かがいた。


それがあの男だったんじゃないかという気持ちになっていた。


「まさか、会議室で見た人影ってあいつのことだったんじゃないだろうな?」


心太朗がそう呟いた。


クラスメートたちはその言葉に誰も否定も肯定もせず、男を見つめる。


男は咳払いをした後、生徒たちへ視線を向けた。


帽子の下から鋭い目が向けられ、友香は軽く身震いをした。


今まで見たことのない目。


人を射るような、睨み付けているような目。


「えーそれではこれより、『範囲指定ゲーム』についての説明を始める」