考えている暇なんてなかった。


友香はギュッと目を閉じて心太朗の背中にしがみ付いた。


心太朗の動きが弱まる。


「友香、離せ! こいつは俺たちの美しい心中を邪魔しようとしたんだ!」


心太朗は叫ぶ。


だけど友香は離れなかった。


「あたしは……あたしは死にたくなかったよ」


友香はそう声に出した途端、涙で視界が滲んでしまった。


「友香……?」


心太朗がゆっくりとこちらを振り返る。


大好きな心太朗の顔をしっかり見る事もできなくて、友香は更に涙をあふれさせた。


「あたしは死にたくなんてなかった。だから、昨日心太朗から話を持ち掛けられたときに、賛成したの」


「で、でも、2人一緒なら大丈夫だよな?」


心太朗はまだ心中は美しいものだと思っている。


その考えはこれからもきっと変わらないんだろう。


そして、友香の力ではその考えを覆してあげることはできないのだと、悟った。


友香はゆっくりと心太朗から距離を置いた。


そして、スローモーションのように首を左右に振り、心太朗の考えを否定したのだった。