10月24日ーー。
『家で死にたい』
入院中、お父さんはお母さんにそう言ったらしい。
誰も本当のことを告げてはいないのに、お父さんは自分の体のことをよくわかってるみたいだった。
お父さんがいなくなる未来が、すぐそこまで来てる。
頭ではわかってるのに、信じたくない。
受け入れられない……。
だけど無情にも進んでいく時間に、ついていくので精いっぱいだった。
最後くらいお父さんの望むようにしてあげたいっていうお母さんの意見で、入院してから1ヶ月が経った頃、お父さんが家に帰って来た。
「お父さん……」
寝ているのか、目を閉じているお父さんのそばに近寄る。
また、小さくなったみたい。
肌の色も黄色くて、明らかにやつれている。
見ているだけで涙が溢れて来る始末。
でも、泣いちゃダメ。
そう思って、必死に涙を引っ込めた。
「るり……?どうした?」
「あ、えっと……あのね」
後ろ手に持った手紙にギュッと力が入る。
今日こそは渡そう。
今日こそは……。
「どうしたんだ……?そんなところに突っ立って」
ベッド柵の隙間から、お父さんがあたしを手招きする。
足腰が弱って立ち上がるどころか、寝返りを打つことさえ苦痛そうなお父さん。
それなのに、お父さんはあたしやゆりの前では絶対に弱音を吐かなかった。
「ううん……やっぱりなんでもないっ!」
何度も何度も手紙を渡そうとしたけど、いざとなると出来なくて。
もう時間がないのに、素直になれない。
もう……話せなくなる日も迫ってるっていうのに。