大丈夫。


大丈夫。


そう思って、いつまでも目を背け続けた。


抗がん剤がキツい薬に変わって髪の毛が抜け落ち、ご飯の味もわからないと今でもそう言ってるお父さん。


ガリガリに痩せて、見ているのもツラいほど。


人って短期間でここまで変わるもんなんだ……。


お肉が大好きで大食いだったお父さんが、今ではそうめんを少し食べただけでお腹がいっぱいだと言って、誰よりも早くに箸を置く。


「なにを食っても、砂を食ってるみたいだ」


お父さんのその言葉に、ご飯を美味しく食べられることはありがたいことなんだと思い知った。


……お父さん。


お父さん。


お父さん……!


涙が溢れそうになったけど、みんなの前では必死にこらえた。


泣くな。


泣いちゃダメ。


一番ツラいのはあたしじゃない。


お父さんなんだから。


「るり、ちょっといいか?」


夜、部屋でぼんやりしていると突然ドアがノックされた。


この声はお父さんだ。


あたしは慌てて部屋のドアを開けた。


「どうしたの?」


瘦せこけた頬と浮き上がった鎖骨が目に入って、とっさに顔を伏せる。


お父さんはそんなあたしを見てフッと柔らかく笑った。


「いや、最近元気かなと思ってな。るりとまともに話してないし」


「あ……うん。元気だよ。お父さんは……」


「?」


「お父さんは大丈夫……?」