「お父さんね、癌が見つかった時ステージ4だったの……」


「ステージ4……?」


病院からの帰り道、車の中でお母さんが唐突に話し出した。


「かなり悪いってことだよ。リンパ節にも転移してたし、抗がん剤でも完治はきっと難しいだろうって言われてたの」


「そう、なの……?治るんじゃないの?」


だって、大丈夫って言ったんだよ?


お母さんが言ったんだよ?


お父さんだって、頑張ってるんだよ?


手術だってした。


それなのに……。


「もちろんお母さんは治るって信じてる。でも、万が一の可能性も考えておかなきゃいけないってことだよ」


「万が一の可能性って……お父さんが死ぬってこと?」


「…………」


お母さんは悔しそうに唇を噛み締めた。


その横顔にたちまち涙が滲む。


その姿が肯定ってことを語ってる。


嫌だ。


嫌だよ……。


なんでそんな可能性を考えなきゃいけないの?


お父さんは大丈夫だよ。


万が一の可能性なんてあるはずない。


お父さんが死ぬなんて……なにかのまちがいだよ。


現実を受け入れられなくて、こんな状況になってもまだ大丈夫だと信じたかった。


そうしないと、心が壊れてしまいそうだったんだ。