しばらくするとお母さんが戻って来た。


どうやら、先生から手術に関する状況説明を受けたらしい。


膵臓の一部に転移してたけど、肉眼で見える範囲の癌はすべて取り除いたこと。


胃周囲のリンパ節への転移の可能性も考えて、リンパ節を切除したこと。


胃の3分の2を取り除いたこと。


目で見えない癌を、今後は抗がん剤で治療するということ。


ひとまず安心していいということだった。


ゆりが「よかった……」と、涙を拭っているのが横目に見えた。


ホントに……よかった。


それから1時間ほどして、全身麻酔から醒めたお父さんがストレッチャーで病室に戻って来た。


麻酔が醒めたといっても意識はもうろうとしていて、うわごとのように「痛い」と繰り返しながら顔をしかめている。


「お父さん……大丈夫?お父さん」


「あなた、もう終わったのよ。大丈夫、大丈夫だからね。ずっとそばにいるから」


「…………」


いつもどんな時でも強かったお父さんが今はとても弱々しくて、なんだかいつものお父さんじゃないみたい。


笑っていてくれなきゃ嫌だ。


元気でいてくれなきゃ嫌だ。


強くいてよ。


お父さんの弱ってる姿なんて見たくない。


受け入れられないよ……。


そんな風に思ってしまったの。


お母さんとゆりがお父さんの耳元で励ましていたけど、立ち尽くしたまま動けなくて。


ただただ、目の前のお父さんをぼんやり見つめていた。


「お姉ちゃん……お父さんの手、握ってあげて」


顔をしかめながら、恐らく無意識に布団の中から手を出したであろうお父さん。