「なんかあった?」
「え?」
太陽の下、万里の黒髪がサラサラ揺れた。
前髪の隙間から、心配そうな瞳があたしを見つめている。
「おばさんもるりも、なんか変だったし。ま、るりが変なのはいつものことだけど」
「もう……ひとこと余計だよ」
だけど、万里にはなんでも見抜かれちゃうんだね。
隠したってムダ。
小さい頃から、万里はあたしの変化にすぐ気付いてくれた。
「お父さんが……癌なんだって。それで、手術を受けるみたいなの」
「え……?おじさんが?」
大きく目を見開く万里。
信じられないっていう顔をしている。
昨日のあたしと同じ反応だ。
いきなりこんなことを聞かされたら、誰だってビックリするよね。
「なんかそれで動揺しちゃって……。お父さんになんて声をかければいいかわからなくて、何も言えなかったんだ」
「そ、か。俺も、信じらんねーや……」
「だよね。そういえば……この前、かなり昔の夢を見たんだよ」
あたしが小学生だった時の記憶。
お父さんと手を繋ぎながら、あぜ道を歩いていた。
昔はよくあんな風に一緒に帰ってたっけ。
お父さんと手を繋ぐのが好きだったなぁ……。
あの手の感触は、大きくなった今でもはっきり覚えてる。