わたしの視線に気づいた彼は、冗談めいた口調で手を伸ばしてきた。
「……っ」
ち、ちがっ……髪の毛、見てただけでっ……
否定しようと慌てて首を左右に振れば、くすっという笑い声が聞こえる。
「そんな脅えなくても、取って食ったりしないから大丈夫だよ」
脅え……って……。
ーーーやっぱり、この人優しい人だ。
まるでわたしの緊張を解してくれようとしてるような、他愛の無い冗談。優しい微笑み。
ふわり、と、
春の温かい風が、横切った気がした。
* * *
「ギリギリセーフだね」
入学式開始の5分前。
彼のおかげで学校までたどり着けたわたしは、ホッと胸を撫で下ろした。

