手遅れになる前に急がなければ。

享也は玄関の鍵をかけるのももどかしく、急いで階段を駆け降りた。

「……兄さん?」

聞き覚えのある声に振り返ると、妹の玲が立っていた。

仕事から帰ってきたのだろう、大きな旅行鞄を肩から下げている。

最近ジャーナリストの助手をし始めた玲は、泊まりの仕事が多くなった。

「どうかしたの? 珍しく琉衣ちゃんいないね」

いつも自分を姉のように慕う琉衣の姿がないのを疑問に思ったのか、玲は不思議そうに首を傾げる。

享也は思わず口をつぐんだ。

玲の顔を見ると、心なしか青ざめて見える。

慣れない仕事に疲れが溜まっているのかもしれない。

「ちょっと用があってな」

享也はそれだけ言うと、琉衣の失踪の事は妹には話さずに車に乗り込んだ。