「ねぇ享也?」

声をかけると同時に車が止まった。

外を見ると小さな喫茶店がひっそりと佇んでいる。

ここは確か、雑誌で見たことがあるような……。

「どうした?」

車を僅かな駐車スペースに停めると、享也が尋ねてきた。

それに答えようとするも、私は店の看板に目が釘付けになる。

何故なら、今目にしている店が某雑誌のデザート特集で一位になった喫茶店だったから。

さっき浮かんだ小さな疑問は、人気の喫茶店を前にすっかり頭から抜け落ちてしまった。

前に行きたいと言っていたのを覚えていてくれたとは。

「享也、大好きっ!」

私は運転席の享也に思い切り抱きついた。

危うくクラクションを鳴らしそうになって享也に怒られる。

恋人からの思わぬサプライズに、私は相当浮かれていたと思う。

この時享也に聞かなかった事を、私はずっと後で後悔する事になる。

あの時聞いていれば、あんな事には――。