ロビーに着くと、フロントでチェックアウトの手続きをしているお客様が見えた。
「ギリギリだけど…間にあった、かな?」
「多分ね〜」
ほっと胸を撫で下ろしていると、
「遅いですよ」
冷たい声色にビクッと肩をすくめ、声のした方を向くと、
「全く、女将がお客様のお見送りギリギリに来るなんて、何を考えているんですか」
厳しい顔つきの樹がいた。
「ごめんなさい。客室の準備に時間がかかって…。あと、来る途中転んじゃって…」
樹は転んだ、という言葉に反応するように視線を向けてきた。
「俺が受け止めたから大丈夫だよ〜。でも織姫、気を付けなきゃだめだよ?」
「うん。ごめんね、葵」
葵の言葉にそう答えると、樹はお客様の方へ向かって歩いて行った。
「ほら、お客様のお見送りに来たのでしょう。いつまでそこにいるつもりですか」
樹の言葉に促され、ロビーの中央へと急ぐ。
