走ってはいるが、着物のためそれほど速くは走れない。なかなか進まないもどかしさを感じながら、それでも足を前に出す。


「あっ…!」


と、足がもつれてバランスを崩す。


(ヤバい…転ぶ…!)


ぎゅっと目を瞑って衝撃に備える。


ドサッ


(あれ?痛くない…?)


ゆっくりと目を開けると、


「大丈夫?織姫」


心配そうに私の顔を覗き込む、葵と目が合った。


「葵っ…!ありがとう。大丈夫だよ」


そう答えると、葵はにっこり笑って私の身体を起こしてくれる。


「これからお客様のお見送りに行くの?」


(そうだった…!急がなきゃ!)


「そうなの!早く行かなきゃ!」


そう言って走り出すと、


「俺も一緒に行くよ。また織姫が転んじゃうかもしれないしね?」


クスクス笑いながら私の隣を並んで走る葵。


(葵って優しいんだか意地悪なんだかわかんないよなぁ…)


そんなことを考えながらロビーへの道を急いだ。