「元気になったみたいだな。さっきは、怖がらせて悪かった」
さっきの鋭い目つきが嘘みたいに、目の前の彼は、優しい表情だった。
「ううん。私の方こそ、助けてもらって本当にありがとう。私は……」
「レイだろ?」
「え?」
「ゴメン、勝手に、パスポート見せてもらった。ここに担ぎ込むのに、ちょっと怪しまれてさ」
「そう、助けてもらったから、怒れないよ。私はレイ。あなたは……」
「アキでいいよ。みんなそう呼んでる」
そう言う彼の表情は、やっぱり穏やかだった。
その瞳は、鋭い光こそ放っていないものの、深い黄褐色。
吸い込まれそうなほど強い力が込められていて、私はアキから目が離せないでいたんだ。
今朝は、午前中にフランクフルトに到着したから、まだ真昼間だ。
観光するには、たっぷりと時間がある。
私は、これから美術館や博物館巡りをするというアキに、ついて行くことにした、というわけだ。


