「奴らは、ナイフも持ってる。お前の、その後ろ手のバッグ。その底にナイフを入れて、中身をごっそり盗ってくんだよ。駅の周りは危険だって知らなかったのか?」


ナイフと聞いて、膝がカクンと落ちたけど、すんでのところで、目の前の彼に支えられた。



確かに、ガイドブックにも『夜の駅周辺は危険だ』と書かれてあった。

でも、まだ午前中の日差しも明るい時間だし、今まで過ごしたドイツの雰囲気からは、全くそんなこと感じさせなかった。

私は、安心しきっていたのだ。

旅が楽しくなって浮かれていた私は、自分の浅はかさに気づいて、ショックを隠しきれないでいた。

と言うより、ただ怖かった。



二人組みの後姿はもう見えないけれど、さっきのドキドキとは違う種類のドキドキで、眩暈がする。

でも、よく考えてみると、この目の前で怒ってる彼は、私を助けてくれたのだ。

それに気付いて「ありがとう」と、お礼を言おうを思ったのだけれども……







「おいっ?!しっかりしろ!」







彼が、そう耳元で叫んでいるのが、遠のく意識の中でこだました。

私の意識は、そこで途切れてしまったのだ―――