今の状況を思い返し、やっとの思いで言葉を発した。


「ば、馬鹿とはなによ!そっちこそいきなり何なのよ」


だけど、私より、なぜか彼の方が、怒りを前面に出して声を荒げた。


「お前、自分の状況、わかってんのか?」

「え?」

「この辺は、ガラの悪い奴らも多いし、お前みたいに無防備な女は、危ないんだよ!」


そう吐き捨てると、チラッと、目線を通りの奥へとやった。

するとそこには、二人組みの男の後姿があったんだ。

白人ではない。

アジア人?それとも中近東だろうか。

体格のいい男二人が、忌々しそうに、目の前の男を一瞬睨みつけた。

だけど、それよりも鋭い光を放つ瞳に怖気づいたように、退散してしまったのだ。

その目の前の彼の姿は、まるで、今にも獲物に襲い掛かろうとする、ホワイトタイガーのようだった。


「あの人たちって?」


私が恐る恐る訊ねると、彼は、男たちの後ろ姿を睨みつけたまま答えた。


「あぁ、スリだよ。お前みたいな、間抜けなツーリストを狙ってる。」

「ま、間抜けなって!」


何も、そこまで言われる筋合いはない。

そう思ったけど、彼の次の言葉を聞いて、血の気が引いた。