「アン王女がね」

「うん」

「最後の会見で言うでしょ?始めは社交辞令な挨拶だったのに、やっぱり思い直してさ。最も印象に残った町は?って聞かれたら『ローマ!断然ローマです!生きている限り、この地を訪れたことは大切な思い出となるでしょう』ってね」


思い出……


「でもね、あたしは思い出なんかにはしたくなんだ。ここであんたたちに会ったこと」

「リリィ……」

「もちろん、あんたたちが嫌じゃなければ、だけどね……って、ちょっと、レイ?」


私は隣に座るリリィを、思いっきり抱きしめていたんだ。


「ちょっと、これじゃいつもと逆じゃない」


そう言ってリリィは私の胸の中で笑ってた。

抱きしめてる私の方は、もう涙が溢れて、顔も声もぐちゃぐちゃだ。


「いいの!嫌なんて、あるわけないでしょ?!思い出なんかじゃないよ。リリィはこれからも私の親友だもん」


リリィの肩が少し震えているのがわかった。


「もう、レイがどんどん生意気になっちゃうじゃない」


ねぇ、リリィ……

ここで、こうして旅をしたことは、私たちの心の中で、決して色褪せることなく、素敵な思い出として大切にしまわれるよね。

でもね、私たちが親友だっていう事実は、思い出じゃなく、いつも今という時と一緒だよ。



リリィの肩ごしに白み始める西の空と、優しい眼差しで私たちを見つめるジュンとアキの姿があったんだ。

私はリリィが泣き止むまで、ぎゅっと彼女の肩を抱きしめていたんだ。