そんな二人の様子は、アキの耳にはもう届いてなさそうだ。 彼の瞳は、真っ直ぐとヴェネチィアの街並みに向かっていた。 私も並んで手すりにもたれかかりその景色を見つめる。 「この景色は、もう200年以上も前から、変わってないんだって」 そう囁くアキの声が、ヴァポレットの走るエンジン音に混じって、私の耳にも微かに届いた。 独り言? いや確かに私に宛てた言葉だ……と思う。 だって、その真っ直ぐな瞳は、まるで海の向こうの大パノラマに話しかけているようなんだもの。