彼は決して口数は多くないが、

律儀で笑顔が優しい男だった。



朝は誰よりも早く起きる。



他の隊員が、ヤケでお酒を飲んでいる間も、

彼は水を片手に聞き手にまわる。



同期がヘマをすれば、

自身が名乗り出て上官からの罰を受ける。



そんな男だった。



第一線に向かう頃、

彼はその隊の長となっていた。



緊迫した、突撃前の最後の日。



夜が更けても、なかなか寝付けなかった。



そっと起き上がって、

そばの大樹に手で触る。



トクンと、微かに脈のようなものを感じた時、

頭上で葉ずれの音がした。



見上げてみれば、木の上に彼がいた。



器用に身体を大きな枝にのせ、

幹に身を預けていた。



そして月明かりを頼りに、

手に何か持って、ずっとみている。



「おい」



俺は、彼に声をかけた。




スルスルと木を登って、彼の横につく。



「何をしていたんだ?」



彼はそれをそっと懐に直した。



「別に」



「そうか」



言いたくないのだろう。

それでも、彼は絶妙な位置を空けてくれ、

俺はそこに腰掛けた。