「はい、オッケーです。ありがとうございました。」


私のオッケーの声にふぅと息を吐くマーケティング企画部の方々。



ジャケットの左ポケットに入れてる腕時計を確認すると時間は11時30分くらい。


腕時計をポケットに入れてるのは、時計がカメラに当たるのが気になる……というのは建前で、本音は時計が元旦那に貰ったものだから身に付けたくはない。
安いものは時間が狂ってくるから好きじゃない。同じレベルの物を買えばいいんだろうけど、悲しいかなカメラ馬鹿の性は貯めたお金はカメラに消えてゆく…



腕時計を再びポケットに押し込み、この後の流れを確認するために青山さんがいたはずの入口付近を振り返る。

しかし、そこに彼女の姿はなく首を傾げる。


とそこへ「やだぁ大也ったらぁ」と入口とは逆の窓側から甘ったるい声だが明らかに青山さんである声が聞こえた。




振り返るとそこには酒井くんの腕に自らの腕を絡ませ胸を押し付けている青山さんの姿があった。


難あり……ってこのことかなーっと小さく息を吐く
隣にいた佳香は「うわぁ…」と声まで漏らしていた


彼女も仕事中のはずだ。



「露骨すぎですよねアレは…」
と私に小声で話しかけてきたが、私からは酒井くんの表情は見えないので、もしかしたら喜んでるかもしれないとも思った。


「付き合ってるのかもしれないよ?名前で呼んでたし…」
私は表情を変えずに小さく返し、「青山さん」と呼びかけながら彼女に近付いた。



呼びかけに振り返った彼女の顔が険しく小さく舌打ちも聞こえた気がしたが、気にせずにこの後の流れを確認する


「この後、食堂で社員の方々が休憩になる前にモデルさんと設備を撮って休憩を挟んで社長室で、その後ラグビー場でいいですよね?」


営業スマイルを崩さず確認をとり、移動の準備を済ましてくれていた佳香と共にドア付近で「ご協力ありがとうございました。失礼致します」とフロアに向かって頭を下げ、19階の食堂へ向かう。

私達の前をモデルさん2人が他愛のない会話をしながら歩く。
本当に非の打ち所のない美男美女だ。


本来先頭で案内しているはずの青山さんはと言うと、酒井くんのところにもっといたかったのがヒシヒシと伝わってくるほどに渋々といった表情で私達の後方にいる。