運命なんてありえない(完結)



「酒井大也くん、大学卒業後にうちのラグビー部に来てくれないか?」


社長が穏やかな表情のまま、俺に提案をする


秘書の人が「契約内容はこちらをご覧下さい」とレジュメを数枚ローテーブルに置く




しかし俺はそれを手にせずその場で立ち上がり




「お願いします!」



と頭を下げた



迷うことなんてひとつもなかった


高梨グループと言えばラグビーやってる人間なら誰もが知ってる


トップリーグでも毎年上位に入り、拠点となる本社とグランドも今住んでいるこの街から近い



大学を卒業しても本気でラグビーを続けられる



やっぱり俺にはその選択肢しかない








「お前あんな即決で良かったの?お前なら他にもスカウト来ると思うんだけど…」

社長と秘書の人を見送った後に顧問が問う


「俺、この街から出たくないんです。」



この街には彼女がいる


貰った契約内容のレジュメをカバンに仕舞う。
帰ってからゆっくり見よう






それから4ヵ月程が経ち、夜部屋で寛いでるとテーブルの上に置いてあったスマホが震える

表示を見ると拓さんからの着信だった

拓さんとはあの卒業式以降、たまに連絡を取り合ったり、飲みに連れてってくれたりしていた


「お疲れ様です」


「おぅ大也お疲れ」



受話器から聞こえるその声はいつも通りのかっこいい男の声だった